二章 調査

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「次に来るかはわからないね。そんなに興味を持ったの?」 「別に。そんな荒々しい奴のこと初めて聞いたからさ。うちの総長に教えておこうかと思って」 「総長、最近来てくれないって伝えて」 「了解。じゃあね」 葉月は通貨を置いて店をでた。 人間が住みついた月は気色の悪い赤に染まっている。月の電気設備は太陽発電だ。赤は明かりの色だ。人々は赤い月をレッドアイと呼んだ。月に移住できた人々の生活は地球の人間にはわからない。ただときおり降ってくる情報が月と火星の生活事情を知る手がかりであった。移住した人間が地球に戻ることはない。それも暗黙の了解になりつつあった。 葉月は四駆車に乗った。鍵を捻ろうとして通信が入っていたことに気がつく。 通信はミサからだった。留守電機能に言葉が入っていた。 「葉月、A305の媒体を探すことになったよ。深夜までに会議室に来て」 少し休ませろと毒づいた葉月はアクセルを踏んだ。 非番という言葉だけの休日を結局仕事で潰す自分を客観的に嘲笑う。 それでも、拒否はできない。 地球は静かに滅亡を辿っているのだから。
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