三章 A305

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地球を治めている総理はアメリカにいる。今はなんでもアメリカを拠点として動いているのだ。以前の国名を名乗っている国は数えるほどしかない。 「許可が落ちないという状態はあんまりです。私たちが知らないことを隠しているとしか思えません」 「特区に入るとなれば自殺志望者扱いだ。君はまだ若い。無理に入る必要はないよ」 マグリッドは優しすぎる。 ミサは兼ねてからそう思っていた。 何か反論しようにも、心配してくれていることがわかるだけに言葉を呑み込むことが多い。 ミサは気をまぎらわせようと資料を見る。 A305。 虫型と聞くだけで鳥肌が立つ。 平本の屋敷を埋め尽くすようにいた虫を思い出すだけで吐き気がした。 身の毛がよだつ。寒気と悪寒と区別の付かない震えが止まらなくなる。息苦しいと素直に呟けば、仲間が差し出した紅茶の匂いがどれだけ助けられたかわからない。 「ミサ。紅茶は杏でいいのかな」 ふと我に返ったミサに、銀色の髪を二つの団子に結んだ少女が言った。 「うん、それでいいよ。ユリア。ありがとう」 紅茶を置いたユリアの長い髪の毛が跳ねた。 ミサは紅茶カップを手にぼんやりと外を見る。 生物兵器監査連邦本部会議室の外は草原だ。
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