三章 A305

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草原には枯れた草しかない。動物は死滅した。生物兵器として使われたのだ。 三十世前は動物を使っての実験が盛んだった。 陸も海も根絶する勢いで媒体となる生物を狩った。 結果的に大半が死滅した。 大地は均衡を保てずに腐敗した。 それでも人間は飽くなき闘いを繰り広げ、数万の生物の絶滅を押さえた。しかし、復活した生物すら研究材料として狙う輩も増えてきた。愛護団体はミサたちの敵だった。 そんな何もないところにぽつんと建てられた巨大な建物がミサが働いている場所であった。 外は草原の癖に中には温室があり、ジムがあり、研究施設が設置され、美味しい食事を提供してくれる社員食堂まである。もちろん、寮も完備されて小さな町になっていた。 贅沢だと思う反面でいつ死んでも良いような仕事ばかりこなしている。普通の感覚では生きていけない世界に生きている。それなのに現実を目の当たりにする度に夢のような気分になる。ミサは紅茶を傾けた。杏の匂いがする。少し前までこの臭いすらしなかったのだ。 「少しは落ちついたか?」 「葉月」 「マグリッド総長は?」 「今までそこにいたけど」 ミサはきょろきょろと部屋を見た。ユリアもマグリッド総長も居なかった。紅茶だけが机にある。 「ユリアは用事があるんだってさ」
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