三章 A305

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「やだ。私、どれくらいぼんやりしてたんだろう」 ミサは紅茶が冷めていることに気がついて、愕然としていた。 「ほんの数分だとおもうよ。たぶんな。それよりマグリッド総長はどこ行ったんだ。面白い話を聞いてきたっていうのに」 「面白い話?」 「ミサにはわからないと思うが、一応、言っとくか」 葉月が口許を吊り上げた。 「わからないとは失礼ね。まだなにも聞いていないよ」 ミサは聞き返す。 「頬に傷のある男と左薬指のない青年を見つけたら教えてくれ。きっと闇商人だ」 「闇商人なんて見つけてどうするのよ」 「まだ確定では無いけれど、見付けると賞金になるんだ」 葉月は楽しげに言った。 ミサにはわからない。 「なにが楽しいのよ」 「ほら、わからないだろう。けれど見つけたら教えてくれな」 「見つけたらね。けどそんなに賞金が欲しいの?」 「金はあるに越したことはない」 葉月が無駄に胸を張る。 葉月は変わらない。隼斗が死んでからもう一ヶ月が過ぎる。 「それより、ワクチンを持ってるモカのことだけど」 「何処に居るって?」 「特区の中に居るって情報があるんだけれど真実味がなくて困ってる」 「火の無いところに煙は立たない。何かあるんだろう」
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