三章 A305

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「総長、私は待機ですか」 「君は俺と媒体調査に向かう。先方に折り合いを着けてきた」 「本当ですか」 「特区の周辺調査だが無断で彷徨くよりは良いだろう」 どこか楽しそうに笑ったマグリッドにミサは喜び半分不安半分で頷いた。 「出発は何時ですか」 「朝だ。今からできるだけ体を休めて、早朝、表に集合だと言うことだ」 ミサは返事をして立ち上がる。 平本のことを知ることとこの一件は必ず意味がある。 そう思っているのだ。 モカを拾ったミサとしてはどうしても平本がモカを媒体にしたとは思いたくなかった。 まだ真実を受けきれずにいる。だからこそ拘るのだ。忘れられないからこそ追求したくなる。平本という男はゾンビになった人々を救うことだけを目標に研究を重ねていたのだ。それを蹴ってまで溢れさせた生物兵器の謎をミサは探している。見つかったという平本の手記は調査部が持っている。ミサには読めない。厳重に保管されている。葉月ならばいざ知らず、平社員扱いのミサには手のとどかない場所にあった。悔しいと思っても手記はこの一件の重要な手がかりだ。それは理解している。 ミサは会議室を出て、寮に戻る。 朝まで数時間もない。仮眠しなければきっと持たない。シャワーだけを浴びて、ベッドに倒れこみ、目をつむる。
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