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「現状形態クラスS。殺せる範囲で殲滅。サンプリング確保だ」
葉月がレーザー銃を構えた。
「新種だと不味いよ。先に平本博士を探さないと」
「馬鹿いうな。この状態だ。中にいるやつらもどうなってるか知らねえ。踏み込む前に一匹獲る」
「連絡してみる。もしかしたら屋敷を離れているかも知れない!」
ミサは連絡器具をポシェットから取り出す。ボタンを押すだけで通信は始まったが呼び出し音が響くだけであった。
葉月がレーザー銃で虫を焼いた。気体が中庭に撒き散らされる。
「酷いものを作ったな。これは」
「平本博士だもの。でも旧式。私たちには効かない」
「隼人たちとの連絡は」
「駄目、出てくれない」
ふたりは結論を下すことを躊躇った。
「虫は殺す。中に踏み込んでからだ」
「そうだね」
ミサが引き金を弾いて虫を焼けば異臭と気体が発生する。
「カプセル潰ししてるみたい」
「そんな可愛いもんじゃねえよ。くっそ」
葉月が玄関を無理矢理抉じ開ける。蝶番をレーザーで焼いたのだ。扉を蹴りつける。
ミサは拳銃を構えた。
延びた通路に猫がいた。虎毛を持った猫が顔を洗っている。ぽつんといる猫は平本が飼っていたトラだ。ふたりに気が付いたモカは呑気に鳴いた。
「猫は無事ってか」
葉月は通路を進んだ。
ふたりは走り出したモカを追いかける。
トラは広間のドアを爪で引っ掻いた。
葉月は扉を開こうとしたが無駄だった。耳を押し付けても中のことは分からないので鍵穴を覗いた。
「げっ!」
「どうしたのよ」
「不味いぞ、みんな腐れてる」
「どういうこと」
「ミサは眼を瞑ってろ」
「そんな説明ないでしょう。何が起きてるのよ」
ミサは葉月の制止を振り切って鍵穴を覗いた。
「駄目だ。ここは開けられない」
「隼人──!」
「馬鹿。声をだすな」
葉月はミサの口を手で塞ぐ。
ミサは衝撃で震えていた。眼にした思い人は完全に腐敗していた。それだけではなく人だったものが転がっているところまで見えたのだろう。
生物兵器監査連邦からは緊急性がある場合は全ての消去を指示されている。
ふたりはそのための手榴弾を所持している。
虫を殺したあとの気体のことも気になる。成分を分析するために媒体となるものを持っていかなければならない。
「隼人はもう無理だ。諦めろ」
葉月はミサに言い聞かせたが彼女の震えは止まらなかった。
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