一章 生物兵器監査連邦

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平本が生物兵器の研究を辞めようとしていたことをミサは知らない。 葉月は上層部から話を聞いていた。ミサはまだ階級が低いこともあって話をすることができなかったのだ。 平本が自らを生物兵器で破壊するだろうことも予測できていたがまさかここまで早まるとは思ってもいなかった。 モカが走っていく姿が廊下に見えた。廊下の先には地下がある。虫の気配はそこから漂うような気がした。 葉月は裳抜けの空となったミサを連れて地下へ急いだ。 資料や媒体を探して本部に持ち帰り、新たなワクチン開発をするのである。 地下室に踏み込んだ葉月は散らばった試験管や机の引き出し等を念入りに調べた。 最終的に棚から手記を見つける。手記は防弾硝子ケースに大事に保管されていた。 手記にはワクチンの作り方が詳細に書いてあった。 「なるほど。だからモカだけ無事なのか。だけど博士は何で心変わりしたんだろうな。なあ、ミサ」 「知らないわよあんなに熱心だった研究を辞めるなんて。どうしてなのか探る必要があるわね」 隼人を失ったことには触れずに冷めた声が答えた。 「そうだな。虫のこともあるし、応援を呼ぶ。それにモカを捕まえないと帰れない」 「モカ?」 疑問符に葉月は答える。 「この手記によるとワクチンには猫の毛から採取される遺伝子が必要みたいだ」 葉月は集めたものをポケットから出した鞄にいれた。四十世紀の現代では鞄を圧縮してポケットに入れるという技術がある。世界は日々進化していく。 生物兵器もそうだ。世界でその研究を認める人々と否定する人々が対立している。 未来に希望をと叫びながら裏側では他国を出し抜こうと日々策略が行われている。 この混乱は一部でしかない。 「泣きたいのに泣けないって辛いね」 ミサの呟きに葉月は黙って頷いた。
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