雨が、やんだら……

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雨が降っていました…… 満開の桜を無残に散らしていきます。 その日、わたしは塾の帰りが、いつもより遅くなりました。近道の小さな天神さんのなかを通ったとき、あたりは、まっくら。人影もありませんでした。 いつもは夜桜のきれいな穴場スポットだけど、今夜だけは、なんだか、薄気味悪い……。 そんなとき、とつぜん、稲妻が走りました。 桜の木のもとを一瞬、青白く照らします。 わたしは思わず、悲鳴をあげました。 雷が怖かったわけじゃありません。 稲光のなかに、人の姿が浮きあがったからです。 それが、なんだか、とても恐ろしいものに見えました。 なぜなら……。 ぼうぜんとする、わたしの肩を、後ろから、誰かがたたきました。わたしは、もう一度、悲鳴をあげました。 「ごめん。ビックリさせた?」 その声を聞いて、また、ハッとします。 ふりかえって、三回めの小さな悲鳴をもらします。 でも、今度の悲鳴は、嬉しい悲鳴というやつ。 それは、一年のときから、あこがれていた、一学年上の先輩でした。 「東堂先輩」 「おれのこと、知ってるんだ?」 「知ってますよ。だって……」 ずっと、見てたからーーとは言えないので、とりあえず、 「だって、先輩は有名だから。全校生徒が知ってると思いますよ?」 それは、ウソじゃない。 アイドルみたいなキレイな顔立ち。成績もトップクラス。さらに、柔道部、剣道部、空手部を掛け持ちで、どれも府内ベストスリーに入るというスーパーマン。 「君は、えっとーー二年の子だよね?」 「宮原です。宮原さやか」 「そう。宮原」 先輩は急に、わたしのさしたカサのなかに入ってきました。そして、じっと、わたしの顔を見つめます。 なんだろう。告白されるんだろうか、なんて考えてしまうほど、ドキドキした数秒間です。 でも、先輩の言ったのは、ぜんぜん別のことでした。それは別の意味で、ちょっとドキッとする言葉でしたが。 「宮原。さっき、悲鳴あげたよね? なんか、見えた?」 恋のドキドキが、すっと、また少し薄気味悪いドキドキに変わっていきます。 そう。たしかに、見ました。 とても奇妙なものを。 桜の木の下で血を流す人影……だったような? 桜の幹に、もたれるようにして、眠るような表情にも見えたけど。 わたしは答えに困りました。 「……べつに、なにも」と、答えるまでに、数分はかかりました。
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