その来客は雨と共に

6/99
前へ
/888ページ
次へ
自らを閉じ込めていたバケツと煉瓦を一瞥した後、子猫は雨傘を差している俺を見上げた。 『ぴゃあぁーー』 高く細い鳴き声を上げる。 濡れた黒の毛並の中で丸く輝く金色の目は、ビー玉のようによく澄んでいた。 辿々しい足取りで靴に寄り付こうとしてくる子猫を避け、俺は再び帰りの路へ戻った。 そんな俺の足取りに、子猫は鳴きながら小さな手足で懸命に着いてくる。 『着いて来るな』 振り返り、小さな身体を見下ろして言う。 助けたのは気まぐれだ。 これ以上何かをしてやるつもりはない。 俺は、動物が嫌いだ。 『ぴゃ~』 『……』 無邪気なものだなと、呆れる。 そうやってろくに警戒もしないから、たちの悪い人間にあんな悪戯をされるんだろう。
/888ページ

最初のコメントを投稿しよう!

863人が本棚に入れています
本棚に追加