その来客は雨と共に

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シャワーを浴びて戻って来たリビングでソファに腰掛け、バスタオルで濡れた髪を拭いていた。 そうしていると、窓の向こうにいつもの来客が訪れた。 (…またか) 来客といっても、こちらは歓迎する気はない。 (毎日毎日、よく飽きないものだな) 閉ざしたカーテンの向こう、窓の傍でしきりに声を上げているその存在を想像して、小さな溜め息を零した。 ーー…少し前のこと。 その日も今日のように雨粒の大きい日で。 雨傘を差して出掛けていた、その帰りだった。 歩いていた道路の隅に、底を天にしてひっくり返ったバケツが置いてあった。 置いてあるだけなら意識しなかっただろうに、よく見ればバケツは小刻みに動いていた。 雨音に消えそうな、か細く高い声を発しながら。
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