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大きな煉瓦を頭に乗せたバケツを、困惑混じり疑惑の目で見つめる。
少しずつ距離を縮めれば、かりかりと金属を掻き毟る不快な音が聞こえてきた。
そして未だ絶えない、か細い鳴き声。
得体の知れない物に対峙してしまった気分だった。
だから触れずに、さっさと先へ行ってしまえば良かったのかもしれない。
なのに妙な気まぐれを起こしたのかその時の俺は、雨と土に塗れた煉瓦をバケツの上から退けた。
そのまま汚れた指で、軽くなったバケツを横に倒す。
道路に横たえられたバケツは、からからとゆっくり転がる。
そして退けたバケツの中からは、小さな黒い子猫が姿を見せた。
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