その来客は雨と共に

5/99
前へ
/888ページ
次へ
大きな煉瓦を頭に乗せたバケツを、困惑混じり疑惑の目で見つめる。 少しずつ距離を縮めれば、かりかりと金属を掻き毟る不快な音が聞こえてきた。 そして未だ絶えない、か細い鳴き声。 得体の知れない物に対峙してしまった気分だった。 だから触れずに、さっさと先へ行ってしまえば良かったのかもしれない。 なのに妙な気まぐれを起こしたのかその時の俺は、雨と土に塗れた煉瓦をバケツの上から退けた。 そのまま汚れた指で、軽くなったバケツを横に倒す。 道路に横たえられたバケツは、からからとゆっくり転がる。 そして退けたバケツの中からは、小さな黒い子猫が姿を見せた。
/888ページ

最初のコメントを投稿しよう!

863人が本棚に入れています
本棚に追加