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窓を打つ雨粒の音がひどくなるのを、憔悴仕切った脳が捉えた。
また一段と寒くなったらしい、毛布の中の手足が微かに震える。
今が何時なのかは分からない、もう見る気にもならない。
どうせ外も部屋も、代わり映えのしない暗さに包まれたままなのだ。
何の変哲もない天井を、ただ鬱屈とした気分で仰いだ。
身体も、神経も、もう何もかもが億劫になるほど衰弱していた。
抗う気力もないまま嫌な感情に引きずり込まれ、落ちていった。
……間違いだったのだろうか。
独りでいようと決めて、ずっと閉じ篭っていたあの家から出たことは。
那月の言葉を受け入れ、伸ばされた彼の手を取ったことは、過った選択だったのだろうか。
料理が美味しいこと。
祭りが賑やかなこと、花火が綺麗なこと。
おはようとかおかえりとか、些細な挨拶が大事なこと。
そんなささやかな幸福の温度を知らなければ、それを教えてくれた彼と共に暮らすことを選ばなければ。
こんな不安定な気持ちに陥らず、あの頃のように、冷たい身体で独り立っていられたのだろうか…。
ーー…時間の流れを掴めない中、力無く開いていた目蓋を閉ざした。
何度かそれを繰り返して、ようやく意識を手放せそうになってきた。
いっそこのまま、眠りから覚めずにいたい。
そうすればもう、こんな感情に振り回されることはなくなるかもしれないから。
眠りに落ちる最後の際、仄暗い自我の中でそんなことを考えた。
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