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「ぴゃあ」
小さな鳴き声を、すぐ傍で聞いた。
浅く目蓋を開けば、俺の腕に黒い物体が絡みついているのが眼前に見えた。
瞬間、絡みつかれている腕の指先に微かな痛みが生じる。
どきりとしたが、思考を妨げている重い霞も微かに晴れてくれた。
「……おはよう、ノラ」
絡まれている腕をもぞもぞ動かし、俺の指先を甘噛みしているノラの腹部を、いたずら心で揉むように撫でる。
その仕草でこちらを振り向いたノラに、寝起きの掠れた声で挨拶をした。
「ぴゃあ~」
俺と目を合わせたノラが、すんすんと鼻先を近づけて来る。
喉を鳴らす音が、やけに大きく聞こえた。
ノラへの朝の挨拶を終え、ぼんやりとしたままベッドから身体を起こした。
その動作がひどく怠い。
風邪でも引いたように、頭はくらくらしている。
昨晩から今までどれほど眠れたのかは分からない。
けれど起床時から既に全身が疲弊している辺り、量も質も最悪な睡眠だったのだろう。
(ああ…、朝が来たのか)
真っ暗ではなくなった部屋のベッドの上で、嫌気を感じるほど外からの光を受け止めているカーテンを見て察する。
そして昨晩の願い虚しく、いつものように目を覚まし、いつものように朝を迎えた自分を嘲笑した。
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