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寝起きのままだった身なりを整えて、何枚かを着込む。
それから窓の前で未練がましく座っているノラを再び抱き上げ、俺は外へ出た。
エレベーターで1階に降り、向かった先はこのマンションの自慢でもあるらしい中庭だ。
中庭の天に屋根は無い。
手入れの行き届いた草木は太陽の光も激しい雨も、降ってくるものはいつも物言わずに受け入れている。
だから目に優しい深緑の色と赤茶色の煉瓦で構成された植物の空間も、この日だけは特別に雪化粧をして、一風変わった雰囲気を醸し出していた。
射し込んでいる青空の光で、雪の白は輝くように際立っている。
そして幻想的な中庭の風景に感性を刺激されて零した溜め息もまた、白く霞んでいた。
「ぴゃあ?」
積もった雪を踏みしめる度に、しゃりしゃりと音が鳴った。
その新鮮な感触を感じながら、俺はノラをそっと雪のカーペットの上に置いた。
「ぴゃ…」
この陽の光なら、きっとこんなに積もった雪も一日と保たずに消えてしまうだろう。
だから疲れて眠くなるまで、今のうちに存分に遊べばいい。
次にこんな景色に触れられるのは、いつになるか分からないから。
「ぴゃあー…」
「…ノラ?」
そう思って連れて来たのに、肝心のノラは遊ぼうとしない。
そればかりか、悲しそうな大人しい声を上げながら俺に縋り付いてくる。
「どうした。遊ばないのか?」
「ぴゃあー…っ」
ノラの傍にしゃがみ、擦り寄ってくる頭を撫でる。
さっきの倍以上の雪に怯んだのだろうか、そう考えながら首を傾げているときだった。
「何してるの? 兄さん」
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