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ーー目を瞠った。
言葉と呼吸が詰まった。
心臓がはちきれるかと思った。
何の”準備”も出来ていないまま、俺は彼の帰りをこんなところで迎えてしまった。
「え、あ…っ。な、なつ…!?」
動揺で言葉を迷子にさせながら、慌てて立ち上がろうとする。
けれど取り乱す余り体勢を崩し、俺は膝で耐える間も無く雪の上に尻を着いてしまった。
「何やってんの、鈍臭いなぁ」
ズボンに雪を染み込ませる無様な姿を見下ろしながら、那月は呆れたように言う。
そして恥ずかしさに眉をひそめる俺へ、すっと手を差し出してくれた。
「ほら」
「……っ」
躊躇いがちに指先に触れれば、しっかりと掴み直されて引っ張られる。
コートの中にずっと仕舞われていたらしい手のひらは、とても温かかった。
捜していた温度だった。
「大丈夫?」
「ああ…。…ありがとう…」
求めていた体温が伝わってくることに照れ臭さを感じ、ズボンに付着した雪を払う仕草で恥ずかしさを誤魔化した。
その最中で、ふと疑問に思った。
「…そういえば…。お前こそ中庭に何しに来たんだ? 俺を捜しに来たわけでもないんだろ?」
屋内のガレージからそのままエントランスへと向かわず、わざわざここへと立ち寄った那月を不思議に思い、訊ねた。
「そりゃあもちろん、雪だるまを作りに」
「は? 雪だるま?」
「え、だってせっかくこんなに積もったんだよ? 今作っておかないと次いつ作れるか分からないんだよ? 作るしかないでしょ」
この世の常識を語るように真面目に言いながら、那月はせっせと雪を掻き集め始めた。
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