新しい朝はこんなにも

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自分が入るついでにと、那月は風呂でノラを洗ってくれた。 「ぴゃあ!!」 まだ風呂の途中である那月からノラを引き継ぎ、俺はリビングへと戻って来た。 専用のバスタオルに包まれたノラは全身が水でしおれているが、鳴き声は はつらつとしている。 風呂に入れられて一時的に興奮してしまっているのかもしれない。 バスタオルで改めて全身を拭き、粗方の水分を落としてからドライヤーをかけた。 「ぴゃあー! や"ーー!」 「大丈夫大丈夫、もう直ぐだから」 ノラはドライヤーが苦手だ。 とにかく避けるし、逃げようとする。 風圧と動作音が怖いのだろう。 「もう終わるから」 だからいつもこうして胡座をかいた脚の中に隔離し、声をかけて宥めていた。 「…ほら、終わった。かっこよくなったぞ」 10分ほどの格闘を終え、俺はドライヤーの電源を切った。 途端にリビングが静かになる。 同時に、絶えず鳴き声を上げていたノラの興奮も収まり始めた。 「ぴゃっ」 懐からこちらを見上げて呼ぶように鳴くノラに、顎の下を撫でて応える。 するとノラはその場で仰向けに寝転び、俺に腹を見せた。 ここを撫でろと言わんばかりの丸い目が、俺を見つめる。 期待に添って腹を撫でると、ノラはビー玉のような二つ目をきゅーっと細めた。 それは、自分は幸せだと全身で表現してくれているようだった。 「…幸せか? ノラ」 俺の懐の中で、徐々に身体の力を抜いて微睡んでいくノラ。 それが俺の問いかけに対する、何よりの答えだった。 「そうか。…そうだな……戻りたくないよな」 小さな子供の小さく柔らかい腹を撫でながら、俺は独り言葉を零した。
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