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唐突な扱いに内心でパニックを起こし、俺は自分が身を任せている彼の身体を押し返そうとした。
「いいって! ソファに凭れるから放っておいてくれ…!」
「今の体勢じゃあソファに頭が置きにくいよ」
那月は笑いながら、慌てて離れようとする俺を適当にあしらう。
けれど肩を引き寄せる力は強く、身動ぎしている俺をしっかり固定して離さない。
「そんな恥ずかしがることないよ。誰も見てないんだしさぁ」
笑いを含んだ声が、直ぐ傍で聞こえた。
次いで柔らかい衝撃が与えられる。
落ち着きを促すように、背中をぽんぽんと叩かれているようだった。
「…離れろよ…頼むから…」
「やだ」
徐々に抵抗する気力を失う。
口だけは達者なまま、俺は次第に彼の身体から自分を離せなくなっていった。
「観念したね」
力を抜いて身体を預ける俺に、満足そうな声がかかる。
ーー”ずるい”と思った。
毛布に匿われて、声が直ぐ傍に聞こえて、身体の温度や匂いに触れて。
四方八方、身体のどこもが那月の存在を感じてしまって。
散々 離れることを望んだ羞恥心も、溶けていってしまうのだから。
…そういえば、赤ん坊は母親の心臓の音を聞いて安らぎを得るのだっけか。
今俺がひどく安堵しているのも、傍で彼の安定した心臓の音を聞いてるからなのだろうか。
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