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頭を預けている那月の肩に顔を埋め、俺は震える手を誤魔化すように毛布を握り締めた。
「……あのときは、ごめん」
情けないほど小さな声で謝る。
那月は謝るなと言った。
謝らせるつもりはない、と。
だからこれは、俺の自己満になってしまうのだろう。
「嫌な思いをさせて、ごめん」
分かっていても、それでも謝りたかった。
なあなあにはしたくなかった。
「兄さん、こっち向いて」
「……」
物柔らかな声と共に、不意に心地良く頭を撫でられる。
俺はおずおずと、その手のひらに促されるままに、埋めていた顔をそうっと上げた。
「中庭で会ったときから気になってた。なんて顔してるのさ」
神妙にしている俺の顔を見るなりそう言って、那月は溜め息混じりに笑みを溢した。
「1日でそんなにやつれちゃって。寝てない上にご飯もちゃんと食べなかったんでしょ」
「……」
「しょうがない人だなぁ」
図星に無言で視線を落とせば、察した那月が眉を曇らせて微笑む。
そしてやつれているらしい俺の頬を心配そうに触れながら、宥めるような声で言った。
「僕もごめんね。そんなになるまで不安にさせて」
最後にそっと輪郭をなぞって、那月の指は俺の頬から離れた。
触れられた感触が、まだ残っているような気がした。
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