新しい朝はこんなにも

140/295
前へ
/888ページ
次へ
頭を預けている那月の肩に顔を埋め、俺は震える手を誤魔化すように毛布を握り締めた。 「……あのときは、ごめん」 情けないほど小さな声で謝る。 那月は謝るなと言った。 謝らせるつもりはない、と。 だからこれは、俺の自己満になってしまうのだろう。 「嫌な思いをさせて、ごめん」 分かっていても、それでも謝りたかった。 なあなあにはしたくなかった。 「兄さん、こっち向いて」 「……」 物柔らかな声と共に、不意に心地良く頭を撫でられる。 俺はおずおずと、その手のひらに促されるままに、埋めていた顔をそうっと上げた。 「中庭で会ったときから気になってた。なんて顔してるのさ」 神妙にしている俺の顔を見るなりそう言って、那月は溜め息混じりに笑みを溢した。 「1日でそんなにやつれちゃって。寝てない上にご飯もちゃんと食べなかったんでしょ」 「……」 「しょうがない人だなぁ」 図星に無言で視線を落とせば、察した那月が眉を曇らせて微笑む。 そしてやつれているらしい俺の頬を心配そうに触れながら、宥めるような声で言った。 「僕もごめんね。そんなになるまで不安にさせて」 最後にそっと輪郭をなぞって、那月の指は俺の頬から離れた。 触れられた感触が、まだ残っているような気がした。
/888ページ

最初のコメントを投稿しよう!

857人が本棚に入れています
本棚に追加