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「……さてっ」
那月は雰囲気を切り替えるような明朗な口調と共に、散々 俺の頬を弄り倒していた人差し指を弾いて離す。
そして調子そのままに、軽い口振りですらすらと話し始めた。
「僕には今、自分の対応のせいで兄さんにやつれるほど余計な心労を与えたという薄暗い後ろめたさがある。…で、それをどうにかこうにかして無くしたいと思っているわけなんだけど。
そのためにはもちろん、兄さんの協力が必要だ。…というわけで」
何か企んでいるかのように意味深に言葉を留めると、那月は俺に向けて真っ直ぐ人懐っこい笑みを浮かべた。
「兄さん、今週の日曜日空けておいてよ」
「…日曜日?」
唐突な申し出に疑問符を浮かべて目を丸くする俺に、那月はにっこり笑ったまま頷いた。
「うん、僕も休みなんだ。だから一緒に外に出かけようよ。今回のことを清算するチャンスを僕にちょうだい」
「……」
「駄目? 嫌?」
耐え切れなくなったように視線を落とす俺の顔を、那月が返事を望んで覗き込む。
了承を窺うようなことを言っているのに、ちらりと見たその表情は自信ある笑みを浮かべていた。
俺が断れない、断らないことをしっかり理解している笑みだった。
「……それなら…」
「ん?」
小さく首を振る俺を見て、那月は小首を傾げる。
そんな彼の様子をちらちら見て、俺は気恥ずかしさに言い澱みながら言葉を継いだ。
「それなら…、ちゃんとおまえ自身が楽しめる場所を選んでほしい。…俺もおまえに後ろめたさがあって、それを清算するチャンスが欲しいから…」
「……」
那月は少し吃驚したように、俺を見つめていた。
だけどすぐに柔らかに目を細め、
「わかった。優しいね、ありがと」
と、再び俺の頭を自身の肩に引き寄せた。
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