新しい朝はこんなにも

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ーー西洋風の大きな門に足を踏み入れる。 その巨体の足元を潜り抜け、一瞬の陰から逃れると、晴天の光と共に目的地の全貌が視界に映った。 ずらりと並ぶ尖った赤い屋根、白やブラウン系統のアンティークな建物。 電線のように宙を張り巡らされたカラフルなフラッグガーランド。 どこからともなく楽しげな音楽が聞こえて、それを飲み込むほどに賑わう雑踏で飾られた景観は、まるで中世のヨーロッパの街並みだ。 外国に旅行に来たのか、タイムスリップでもしたのか、そんな馬鹿みたいな錯覚すらしてしまう。 ゲートを越えて広がる景色は、見事なまでに別の世界を創り上げていた。 「ほら、言った側からぼーっとしてるよ」 入り口でいつまでも突っ立っていると、那月に手を引っ張られる。 見知った現実からかけ離れた景色に圧倒されている俺は、彼の歩む先に疑問を覚える間も無くただ従った。 「あそこでタウンマップが貰えるんだーっ」 そう言いながらすたすたと那月が歩いていく先に、ピンク色の屋根が着いた可愛らしく小さなリヤカーが止まっている。 その直ぐ隣には、持ち主であろう道化師が沢山の風船を持って立っていた。 (!? 怖…っ) 握られっぱなしの手と共に、顔が緊張で強張る。 白塗りの顔面、真っ赤で太い唇と丸い鼻。 狂気を感じるメイクの組み合わせに、俺は那月の後ろで独り戦慄した。
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