857人が本棚に入れています
本棚に追加
それからも、俺と那月は街中を散策した。
那月はあれこれに興味を向けるが、俺を置いて行くことはしなかった。
どれだけ独りはしゃいで楽しんでも、俺を忘れることなくいつも視野に入れていてくれた。
だから俺は、夢中になる彼の目まぐるしさに着いていけた。
彼との会話や散策を、一緒になって楽しめた。
最初に繋いだ手を、ずっと解かずにいてくれたから。
冬空を忘れるような人混みの中、俺と那月のように手を繋いでいる人たちはたくさんいた。
それは親子だったり、夫婦だったり、恋人同士だったりときっと様々だった。
だけど互いに手を固く結び合い、仲睦まじく歩いているのは確かだった。
”堂々としていればいいんだよ。そしたら、こうしていることも自然なものに見えるから”
那月にそう言われてからは、挙動不審にならないように心掛けていた。
だからか、誰も俺たちを気に留めることはなかった。
直ぐ傍を横切っても振り返って見直されることもなければ、遠巻きに観察されることもなかった。
それは周囲にとって、俺たちの姿が違和感ないということなのだろう。
那月の言う、”自然なもの”になれているということなのだろう。
「この歳になって、外出先で手を繋いで歩いている兄弟ってどうなんだろうな」
「大丈夫だよ。僕たちのこと、初見で兄弟だって分かる人なんていないから」
「…そうだな」
さっぱりとした笑顔で言う那月に、俺は曖昧な笑みで小さく頷いた。
たしかに容姿も雰囲気も殆ど似ていない俺たちはいつも、兄弟だと紹介する度に驚かれていた。
今も、俺たちを兄弟だと見ている人間はいないのだろう。
「……」
ーー那月は今、何を思っているのだろうか。
周囲のようにこうして手を繋いでいる俺たちはきっと、兄弟には見えていなくて。
だけど ただ仲が良いだけの友人同士としても、見られていないのだろうに。
最初のコメントを投稿しよう!