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街の奥へ進むと、円に開かれた広場に辿り着いた。
街の中央部でもあり、時計塔の足元でもある噴水広場だ。
さすがの広さに人混みも晴れ、心なしか空気の通りも良くなったような気がする。
雑踏で溜まった疲労を解すように、俺は深く息を吐いた。
同時に、人々の活気で誤魔化されていた冬の寒さが舞い戻ってくる。
久し振りに感じた冷えは、湯冷めしたような感覚だった。
「疲れたね。どこか入って休憩しようよ」
那月のその提案は、俺にとってとてもありがたいものだった。
そびえ立つ時計塔が指す時刻は、午後2時過ぎ。
そろそろ歩き疲れた身体を休めたいと思っていたところだった。
「どこに行く?」
マップを広げて、那月に問う。
軽食なら歩きながら食べるための路上販売があったのだが、脚を休めて寛げる場が良いのならそういう店が密集しているエリアへ移動しなければならない。
中央部から北東…、あの道から先がそうなのだろう。
「兄さんは食べたいものある?」
「俺は別に何でも。変なのじゃなかったら」
「じゃあ、僕この街に来たら絶対行きたかったところがあるから行っていいっ?」
ねだる那月の瞳が輝く。
「ああ、いいよ」
「じゃあこっち! 着いて来て!」
子供のような嬉々とした表情に、俺は苦笑しながら頷いた。
よっぽど食べたいものがあるのだろう、この街の名物とかだろうか。
何にせよ。彼が行きたいと言うのなら俺は大歓迎だ。
そのための今日なのだから。
「ここ! ここに来たかったんだ!」
”ふくろうカフェ”
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