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「待て、待ってくれ」
店の扉に向かって突き進んで行く那月と繋がれた手のひらを、未だかつてない握力で握り締めた。
「えー、何で?」
鬼気迫る表情の俺に引き留められ、那月はきょとんと小首を傾げて立ち止まる。
何でと訊かなくても知っている癖に、白々しいにも程がある。
「お前が楽しみにしているのは分かっている、分かっているんだ。分かってはいるんだが、鳥は駄目だ。本当に許してくれ。頼むから」
鋭い嘴と眼力を脳裏に浮かべながら、縋るように言い募る。
「んー…。まぁ、兄さんがそこまで怖がるなら我慢するしかないかなぁ」
「那月…」
切羽詰まる俺の心情を察してくれたのか、那月は少し残念そうにしながらも笑って許してくれた。
「ごめん…」
「いいよ。僕だけが楽しんでも仕方ないしね。じゃあもうひとつ候補があるからそっち行かせてよ」
話が決着した途端、那月は別の店へと俺の手を引いて行く。
なんて寛容な奴なんだろう。
彼の後ろ姿に、俺は心の底から感謝をした。
(だけど楽しみを奪ってしまったな…。どこかで埋め合わせをしないと…)
罪悪感に駆られ、手を取られながら作戦を企てる。
「ここ! ここに入りたい!」
そうこう思考を巡らせているうちに第二候補に到着したらしく、俺は看板を見るために視線を上げた。
”爬虫類カフェ”
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