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「待て待て待て待て待て」
店の扉に向かって突き進んで行く那月と繋がれた手のひらを、前回を上回る握力で握り締めた。
「もー、何でさーっ」
血の気が引いた俺に引き留められ、那月はきょとんと小首を傾げて立ち止まる。
相変わらずの惚けた態度に、いっそ怒りすら込み上げてきそうになった。
「本当に許してくれ、爬虫類は本当に駄目だ。本当に勘弁してくれ。本当に頼むから」
ふくろうカフェよりも心臓に悪いカフェを前にして、ふるふるとかぶりを振りながら懸命に乞い縋る。
「じゃあふくろうカフェに行きたい。どっちかは絶対入りたいもの」
にこっと笑って繰り出された提案に、俺は息が止まった。
添えられた”絶対”という言葉に、逃げ場を奪われる。
さすがの那月も、ここから先は譲ってはくれないらしい。
どちらかを選べということなのだ。
「……っ」
鳥類も爬虫類も、身体が竦むほどには怖い。
だけど俺としても、これ以上 那月に譲らせるわけにはいかないことも分かっていた。
まして今日を楽しみにしていた彼が街に来た目的が、この二つだと言うのなら特に。
「爬虫類かふくろうなら、ふくろうの方が兄さんの目には優しいと思うよ」
葛藤している俺に、那月は笑顔のまま言葉を発した。
「丸くって、もこもこしてて。兄さんの怖がってる嘴も小さいし、目だってまん丸で可愛いよ。ノラくんを眺めてるような気分になれるって」
「……」
「トカゲとかカメレオンを腕に乗せたり、蛇を首に巻きつけられたりするよりかは兄さんの精神衛生が保たれると思うな。ね?」
「…おまえやっぱり、この前のこと根に持ってたりするのか…?」
「ははっ。ないない、そんなこと全然ないよ」
青ざめた表情でいる俺を楽しげに見つめながら、那月は笑ってそう言った。
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