857人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんにちは。君はコキンメフクロウだね」
人の子供にするように、那月は気さくに話しかける。
コキンメフクロウと呼ばれたふくろうは、その小さな頭を傾げて那月を見上げた。
「ほら見てよこの愛くるしさをさぁーっ」
転じて猫撫で声になり、那月は指先を使って小柄な背を愛でるように触れる。
きょとんした丸い瞳とふっくらとした体型に射抜かれ、すっかり虜になっているようだった。
「嫌々してないで兄さんも触ってみなよ。無害なのは見てたら分かったでしょ?」
「……っ」
今一度 那月に勧められ、俺はふくろうを見つめて黙り込む。
鳥類は苦手だが、これぐらいのサイズなら、と葛藤している自分がいた。
実際 雀ぐらいなら俺だって、道端で遭遇しても何も思わない。
店で管理されているなら衛生面も問題ないだろう。
何より、無害だということが那月によって証明されている。
……それならまぁ、一度くらいなら。
「お、触る?」
那月にいきさつを見守られる中、俺はおずおずとふくろうへ手を伸ばす。
そして教えられた通り、手の甲で背中をゆっくりとさすった。
「……あ、柔らかい」
ノラとは違う、癖になるような丸っこい感触に、強張った身体が解れていく。
そうして警戒心が薄れ始めた頃。
枝に脚を着けたままのふくろうが、唐突に両翼を広げ、ばさばさと音を立てながら羽ばたいた。
「ーーーっ!?」
反射的に手を引っ込め、パニックになりながら1、2歩と後ずさる俺を、腹を抱える勢いで笑っている那月に支えられる。
以降俺が、このふくろうカフェで触れ合いに臨むことはなかったーー。
最初のコメントを投稿しよう!