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約束、という言葉にはっとした。
「…覚えてたのか」
「忘れたりなんかしないよ」
にこっと笑って、那月は手に持っていたバスボムを俺に手渡してくる。
「もったいなくて使えなくて、いざ使えばのぼせ上がってもまだ風呂に居座ろうとするほどには気に入ってくれたみたいだし?」
「……」
悪戯な笑みであの日の痴態を思い出させてくる那月に、顔をしかめる。
頬に浮く熱を悟られる前にそっぽを向けば、くつくつと笑う声が聞こえた。
「カゴは僕が持っておくから、気に入ったの好きなだけ入れなよ。会計も僕がするし」
「何言ってるんだ、自分のなんだから自分で払う」
「いーよ、これは頑張ってふくろうカフェに着いて来てくれたお礼も兼ねてるんだから」
「だけど」
「ここは兄さんが大人になって一歩引いてよ。僕を立てると思ってさ」
「……っ」
抗議する俺を、那月はさらりと簡単にあしらう。
上手い口実を作った彼を言いくるめる術が見つからず、俺は言葉を詰まらせた。
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