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それから数十分後、俺たちは店を出た。
買い物をした証である紙袋を、それぞれ一人ずつ提げながら。
「これなら1ヶ月は安泰だね」
紙袋を腕にぶら下げながら、那月はけらけら笑っている。
そんな彼の隣を、俺は面目無い気持ちで歩いていた。
那月が持っている大きな紙袋には30個の…、約1ヶ月分のバスボムが詰められている。
選別しようにもどれも捨て置き難くて悩んでいた俺を見て、迷うなら全部買えばいいと那月が片っ端からカゴに入れてくれた結果だ。
会計のとき、膨れ上がった金額を見てさすがに半分だけでも払わせてくれと申し出たのだが、あっけなく一蹴された。
それでも食い下がる俺に、じゃあこれを買ってくれと那月は自分の選んだものを渡してきた。
それが今、俺が手に提げている小さな紙袋だ。
中には部屋に置くためのアロマと、ボディソープが入っている。
「…なんか納得がいかない」
「なんで?」
「結局俺だけが得をしているじゃないか」
那月の選んだものは俺が購入した。
だけどたったこれだけじゃ、俺の体裁を保つためにお情けで奢る形を取らせてくれたようなものだ。
那月は30個という馬鹿げた量のバスボムを買わされたのに。
こんなのフェアじゃない。
「律儀というか、頑固というか」
那月は堪え切れなくなったように、溜め息混じりに笑みを溢す。
それから一度歩みを止めて、ばつの悪さに眉を落としている俺と向き合った。
「じゃあさ、兄さん。もう一回”ありがとう”って言ってよ」
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