新しい朝はこんなにも

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「…どうしたの? 急に」 暫くの沈黙の後、那月は歩みを止めなければ振り返りもせずに、背中に守っている俺に問いかけた。 冗談でも聞いたように笑うのだろうと思っていた俺にとって、少し物静かな彼の反応は意外なものだった。 「…別に。もったいないなって、思っただけだ」 伏せた視線の先に、繋がれた手の結び目が映る。 改めて見たその姿形に、俺は那月の死角でやるせないほどに小さな笑みを零した。 「大人の…いい歳した兄の手なんて繋いでいる場合じゃないだろ、って」 手を繋ぎ返せないのは、後ほんの少し指を折り曲げて彼に触れ返せないのは。 俺の中の俺に対する、最後の反抗だった。 あるいは、エゴだった。 俺にはもう、自分から彼の傍を離れる術も、勇気もない。 だからといって傍に縛り付けても、がらんどうな自分には返せるものも与えられるものもない。 だからどうか、彼から離れて欲しいと思った。 触れるどころか手も届かない、姿も見えない場所へと歩んで、こんなに歪んだ俺を置いていってほしかった。 優しく頼もしいこの手で、俺が付け入る隙もないほどの幸せを掴み取ってほしかった。 「おまえ強引なときもあるけどさ。優しいし、気立てもいい奴だからすぐに見つかるだろ」 ーーきっと幸せになれるのだろう。 いつかそう遠くない未来に現れるかもしれない、彼の特別な人は。 何の後ろめたさもなく、堂々とこの手を繋ぎ返せる、”自然なもの”になれるその人は…。
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