新しい朝はこんなにも

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切り替えるような小さな溜め息を吐くと、那月は困り気に微笑んだ。 「というかさ、こんな落ち着かない人混みでする話じゃないよ? これ」 「え? あ…っ。あぁ。それも、そうか」 ごもっともな指摘に、思わずはっとなる。 そして咄嗟に雑踏へ視線を泳がせるほど動揺してしまった俺を、那月は可笑しなものを見たかのように笑った。 「まったく、この人混みに知人がいたらどうしてくれるのさ? 兄に独り身なのを本気で心配されている28歳の弟、なんて次会ったときに何言われるか分かったもんじゃないよ」 わざとらしく肩を竦めて、不服そうに言う。 いつの間にかいつもと変わらない雰囲気に戻っていた那月を見て、なんだか糸が解れたように気分が安らいだ。 「……そうだな」 溜め息混じりに、微かに苦笑する。 「俺も知人に見られたら困る」 硬く繋がれた手に視線を落とした。 見知らぬ人間ならまだ開き直れるが、知人に見られるのはさすがに怖い。 俺を見知った人が、俺が彼に向けている表情や言葉、態度が客観的に見てどう思うのか。 正直、不安だったから。 …けれどきっと、過ぎた心配だ。 「まぁ…、大丈夫だろう」 この日、この場所、この人混みでよく知った人間と遭遇する。 そんな低確率な事象が起こるわけがない。 そう考えながら、くるりと何気なく、雑踏を見渡した。
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