857人が本棚に入れています
本棚に追加
ーー日曜日の外出から3日が経った。
感覚はすっかり仕事に努める日常に戻っていたが、散策したあの街の景色はまだ頭に焼き付いている。
無論、ふくろうと道化師に対する恐怖心も。
それでもまた行きたいと思ったのは、やはり那月が隣を歩いていたからだろう。
今日の仕事を務め終え、俺は院長室に戻って来た。
開きっ放しのカーテンから西陽が射し込んでくる。
眩さに目を細める中、高層ビルが深い影を纏っているのが微かに見えた。
(帰るか…)
窓へと歩み、カーテンを閉ざす。
照明を点け、机上を簡単に整理する。
それから俺は白衣を脱ぎ、早々に着替えを始めた。
今日は那月が非番で家にいる。
たったそれだけの理由が、帰り支度を急がせた。
(……やっぱり駄目だな)
そうして一刻も早くと帰りたがっている自分を、小さく嘲笑した。
彼が家にいるというだけでこんなに嬉しがる自分が、本当にその時が来たら彼を追わずにいられるのだろうか。
溜め息を吐いて、かぶりを振る。
胸に患う滲むような痛みに、俺は必死で気付かないふりをした。
ーーそのとき、院長室の扉が控えめにノックされた。
「はい」
「お疲れさまです、院長。一色纏です。
帰るところにすみません、少しお時間よろしいですか?」
「はい、大丈夫です。どうぞ」
「失礼します」
了承を得れば、一色纏は扉を開けて部屋の中に入ってくる。
そのまま俺の姿を捉えるなり、丁寧な動作でお辞儀をした。
部屋を照らすオレンジの照明に、彼のグレーの髪色はよく映えた。
最初のコメントを投稿しよう!