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「ありがとうございます、一色先生。
最近になって甘い物を好むようになったので、このお土産はとても嬉しいです」
失礼を雪ぐため、改めて彼の好意に礼を言う。
「それに、弟もきっと喜びます」
鞄に収まりきらないお土産をそのまま腕に抱え、小さくお辞儀をする。
すると一色纏は俺を眺めながら、どこか微笑ましそうに目を細めた。
「院長は弟想いな方ですね」
……弟想い、か。
「…。そうなれていたらいいのですけど」
後ろめたさを感じながら、俺は曖昧な笑みで彼の柔らかな表情に言葉を返した。
「そろそろ出ましょうか。一色先生は車通勤でしたか?」
「いえ、僕はまだ病院に残ります。調べ物をしたいので」
「そうですか。無理はしないでくださいね」
「お気遣いありがとうございます。…ところで院長」
「はい」
「実は僕、プライベートではとある趣味の延長で創作活動を行なっているんです」
「……はい?」
余りにも唐突で脈絡がない話の切り替わりに戸惑い、俺は怪訝な表情になる。
けれど一色纏は自分に向けられた不可思議な反応を何の気にも留めず、気さくに話を続けた。
「それも相まって、人の表情の細かな移ろいや仕草を観察するのが好きなんです。いわゆる”人間観察”というやつなのですが…」
笑みに細められた目が、話に着いていけきれていない俺を見つめる。
そして左右の端を吊り上げた口元が、言葉を放った。
「そのお土産を買った出先で、とても興味をそそられる人物を見つけたのですよ」
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