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「……言いふらすつもりですか?」
冷や汗を滲ませながらも、顔をしかめてきつく睨み、問う。
「僕は心配しているのですよ」
「心配…?」
明らかな敵意を向ける俺に、一色纏は怖気ないどころか肩を竦めて苦笑した。
「ええ。院長だって気付いているのでしょう? これはあなただけの問題ではないのだと」
「……」
「あなただけが奇異の目で見られ、侮蔑されるだけでは済まない、とね」
ーーそうだ。
穏やかな表情で放たれる鋭く残酷な言葉に、俺は唇を噛み締めた。
「例えどれだけあなたの想いが純粋なもので、他の人間と何ら変わりないものだったとしても…。
向けた相手が血の繋がった弟となれば、周囲はそれをタブーとして後ろ指をさし、あなたを排斥しようとするでしょう」
耳を塞ぎたくなるほどの事実を、音と言葉にして容赦無く代弁する一色纏から、さっと笑顔が消える。
「そんな実の兄に劣情を向けられた弟として、世間の奇異の目に晒された人間の元に、共に幸せを築いてくれる良き人が現れるでしょうか?
そしてあなたの弟は、タブーとなって自身の将来に傷を付けてくれたあなたを、どう思うのでしょうね?」
冷酷なまでに厳かな表情と視線が、俺を逃さずに問いかけた。
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