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「厚手のコート一枚脱ぐだけでそんなに怯えられては、この先が思いやられますねぇ」
一連の過程をソファの肘掛けに頬杖をつきながら眺めていた一色纏が、困ったように微笑む。
「…大丈夫ですよ」
言葉を返さず黙って視線を落としていれば、見兼ねたように俺の髪に触れた。
「初日からがっつくほど僕も野蛮な人間ではありません。
今日は約束の証として、あなたに痕をつけるだけですよ」
宥めるように言いながら、髪の中に指を潜らせ、ゆっくりと梳く。
その擽ったさが嫌で、俺は彼の指先を振り払うように小さくそっぽを向いた。
「…さて。ネクタイとシャツのボタンを外して貰いましょうか」
俺の態度にくすりと苦笑を零した後、一色纏は再び指示を告げる。
俺は返事も頷きもせず、彼に従った。
ネクタイを解き、指先の震えが邪魔してもたつく中、言いつけ通りシャツのボタン全てを外した。
「やっぱり院長は色白ですねぇ」
ボタンを外されたシャツを退かすように開きながら、一色纏は関心深そうに呟く。
そして所在無さげに垂れる俺の手を掴むと、シャツの中のインナーへと充てがわせた。
「ほら、自分で捲ってくださいね」
「……っ」
視線を受ける中、皺になるほどにインナーの裾を握り締め、下から上へと躊躇いながら捲っていく。
腹部、胸部、鎖骨。
普段 衣服に包まれて隠れている肌が、照明の下 一色纏の前に晒されていく。
それは側から見れば、自分から彼を誘っているかのような姿だった。
ーー…嫌だ、こんなの嫌だ。
観察するような一色纏の視線を拒絶するように、きつく目蓋を閉じる。
不意に目の奥に、じわりと熱が込み上げた。
その熱を堪えるように、俺は捲り上げたインナーを口元に押し当てながら、下唇に歯を立てた。
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