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ずっと、たくさんの悪意に晒されて生きてきた。
視線や言葉、あるいは覆い被さってくる身体に、容赦なく責め立てられた。
全身が傷に汚れた。
その中の幾つかにはきっと、自分で付けたものもあった。
膿んでいく傷口を、いつも他人事のように俯瞰していた。
不思議と痛みや苦しみは感じなかった。
それを誰かは、人形のようだと指差して嗤った。
錆びた雨を吸い込みながら、ぼろぼろのまま野晒しになっていた。
助けを呼ぶ声も出なければ、言葉も知らなかった。
次第に軋んでいく身体、呼吸。
褪せていく心と記憶。
膿で汚れた傷口から全てが流れ終え、空っぽになった自分が冷たくなって止まるまで、もう時間の問題だった。
それで良いと思っていた。
それを疑問に思うことなんてなかった。
あの人が見つけて、拾い上げてくれるまでは……。
ーーけたたましい音が響いた。
「ぴゃーー!」
一緒にベッドに潜り込んでいたノラが、目を見開いて飛び起きる。
毛を逆立てながら鳴き声を上げ、毛布の中を右往左往し始めた。
「…戻っておいで」
毛布を捲り、横たわっている俺の足先辺りまで潜っていったノラを覗き込む。
暗闇の中で丸く固まっている姿に小さく声をかけながら、傍まで出てくるようベッドの表面をとんとんと叩いた。
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