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ーーすっかり乾いた冷却シートを頭から外し、ゴミ箱に投げ入れた。
太腿の上で丸まっているノラに断りながらベッドを降り、着替えを始める。
姿見に映ったインナー姿の自分の鎖骨の下には、一色纏の付けた赤い痕が薄暗い部屋の中でも見て取れた。
”綺麗に赤く残りましたよ”
”末長くよろしくお願いしますね? 院長”
ソファの上で茫然と蹲る俺を見下ろした、余裕のある笑みを思い出して独り顔をしかめる。
姿見の前で肌に強く爪を立て、痛みも構わず痕を引っ掻いた。
着替えを済ませ、ノラを連れてリビングへと出た。
既に起床していた那月が料理をしているらしく、ほのかに味噌汁の匂いが漂ってくる。
「おはようー」
リビングに入って来た俺を僅かに一瞥した那月が、こちらを見ないまま言った。
包丁を握っていて、ちょうど目が離せないようだ。
キッチンは何かを焼いている音や水の流れる音で、忙しなく騒いでいる。
「おはよう。…何か手伝おうか?」
邪魔にならないように隣に立ち、横顔を覗き込んで遠慮気味に訊ねる。
「じゃあ、もうちょっとで鮭焼けるからお皿出して。あと、ご飯よそってほしいな」
「わかった」
指示を受けた俺は言われた通りに皿を用意し、炊き上がった白米を茶碗によそった。
ついでにコップにお茶を入れ、今朝は和食らしいからと箸をテーブルに並べていく。
その最中で、焼きあがった鮭を取り出して皿に盛り付けている那月の後ろ姿を眺めた。
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