新しい朝はこんなにも

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…少しだけ安心した。 実は昨晩のやり取りを引きずっていて、彼に話しかけるのを緊張していたから。 『悪い…、頭が回らないんだ。今日はもう休ませてくれ』 『おまえいつも我が物顔で部屋に入って来るけど今日は本当にやめてくれよ。その…、本当に疲れてるんだ…』 俺は自分を見透かしているであろう那月への接し方に戸惑い、避けるようにして部屋に篭ってしまっていた。 そのよそよそしい態度にすら気付いて難色を示している彼を、見ないふりをして。 …普通に返事をくれて良かった。 ーーノラの餌を準備して、俺たちも朝食をとり始めた。 味噌汁の温かさと味が、喉を通して全身に染み込んでいく。 日に日に美味しいと感じるのは、那月の腕が上がっているからかもしれない。 もしくは一緒に過ごす内に、彼の味付けが好みになった自分がいるからか。 「ね、兄さん」 「ん?」 「何で今日はボタン全部留めてるの?」 どきりとして、鮭の切り身をほぐす箸の動きを止めてしまう。 まさかこんな小さな違いに気付かれるなんて、思ってもみなかった。 「まだ出るまで時間もあるんだし、外しとけば? ご飯中もそれって息苦しくない?」 「…ああ…。そうだな…」 渋ると怪しまれると思い、俺は片手で一番上のボタンだけ外す。 これ以上は警戒心が勝って解けない。 ボタン全てを留めて、ようやく不安を拭えていたから。 (見られたくない) 那月がこの痕を見て、何も思わないわけがない。 気付かれたらきっと、質問責めされるに決まっている。 いつの間に恋人が出来たんだと、俺をからかうのだろう。 それが堪らなく嫌だった。 一色纏を恋人と位置付けられるのも。 俺を、恋人のいる人間だと那月に見られるのも。
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