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「あ、一色先生!」
「お疲れさまです!」
近付いてくる一色纏の姿に振り返った2人が、彼に向かって頭を下げた。
「はい、お疲れさまです」
はきはきとしてお辞儀する杉崎と早川に、一色纏はにこりと笑いかける。
次いでその笑みは、俺へと向けられた。
「院長も、お疲れさまです」
「…お疲れさまです」
警戒心に肩を緊張させ、繕う笑みなく挨拶を返す。
明らかに歓迎していないこの態度を見ても、一色纏は全く動じずにいて柔らかな笑みを崩さない。
「チョコレートか、悪くない選択だね。計画的に摂取すれば脳にも良い影響を与える」
一色纏は俺の提げている袋に透ける中身を一瞥した後、傍らの杉崎と早川を交互に見て言う。
その発言はまるで、2人が俺に差し入れをするのを前もって知っていたかのようだった。
「院長、一色先生なんですっ。院長のことを心配してたのは」
振り返った杉崎が俺に笑いかける。
「……一色先生が、ですか?」
「はいっ。今朝は院長の顔色が優れないって、きっと疲労が溜まっているんだろうって」
「オレたち全然気付かなかったですよ。一色先生って患者のこともスタッフのこともよく見てますよね」
「……」
顔色が優れない?
疲労が溜まっている?
心配していた?
……ふざけるな。
笑みを湛えている一色纏の白々しさに胸の底からの苛立ちを感じて、俺は手のひらを強く握り締めた。
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