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「……!」
”弟”という言葉を持ち出され、途端に鼓動が強く打つ。
何も言わずに硬い表情で一瞥すれば、一色纏は柔らかな目で見つめ返してきた。
ーー…牽制。
人の緊張を解くようなその穏やかな笑みを、俺はそう受け取った。
「ありですね、それ!」
「院長、食べ切れなかったらどうぞ那月さんと分けっこしちゃってくださいよ!」
「俺たちからの少し遅いバレンタインだと思ってください!」
一色纏の言葉を聞いて、大人しくなっていた2人が思い出したように目を輝かせた。
「那月さん元気かなぁ?」
「な、また話してみたいよなぁ」
すっかり元気を取り戻し、そのままこの場にいない人間の話で盛り上がり始める杉崎と早川。
「ナツキ…。それが院長の弟さんの名前なんですね」
そんな活気で無邪気な彼らを見ながら、一色纏は興味ありげに頷いた。
「2人は、弟さんに会ったことがあるのかい?」
「はいっ、ずっと前に1回だけ」
「でもLINEのやり取りは今でも時々してますよ!」
「ほぉー…」
柔和に問いかける彼に、2人は嬉々として答える。
それを聞いて満足そうに相槌を打つ一色纏の横顔を、俺は胸騒ぎを覚えながら見つめていた。
「院長の弟だというなら、さぞ眉目秀麗な方なのでしょうね?」
「実際カッコよかったよな、ヒロ」
「うんっ、身長高くてスタイル良かったし、笑顔も爽やかで素敵だったよね~」
「しかも警察官ときた!」
「そうそう! 俺の通勤路もパトロールしてもらいたいなぁ」
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