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「警察官ですか。なるほど、それは素晴らしい」
口々に盛り上がる杉崎と早川に混じって、一色纏は関心深そうに言葉を零した。
「国民のために身を粉し、世の安寧と秩序を守る…。並大抵の意志では続けられないことですね」
口を閉ざして警戒している俺へと視線を寄せ、目を細めて口角を上げる。
「誇らしい職業に就いている弟さんだと、兄であるあなたも鼻が高いでしょう。ね…? 院長」
「……」
ーーそのとき、廊下に連なる窓の外が一瞬の光に白く点滅した。
「ひゃあ!?」
間も無くして響く雷の怒号に、杉崎が大げさなまでに肩を跳ねさせる。
「すっげー近いとこに落ちたなぁ」
早川も目を丸くして、落ち着かない様子で窓の外を眺めた。
分厚い雲に覆われた灰色の空。
外に見える木々が、葉が千切られそうなほど強く揺さぶられているのが見える。
日中は多少落ち着いていた雨が、今の雷をきっかけに激しさを増して、再び横殴りに降り始めたようだった。
「…おお、これはいけない」
不意打ちの雷鳴に一切動じなかった一色纏が、雨垂れが叩き付けられる窓に近付き、杉崎と早川に振り返った。
「君たちはもう帰りなさい。車じゃないのだろう? これ以上酷くなったら大変だ」
「は、はいっ」
「そうですね。帰るぞ、ヒロ!」
一色纏に促されて危機感を覚えたらしい2人は、改めて俺たちに一礼する。
「院長、一色先生、お疲れさまです!」
「お疲れさまです、お先失礼します!」
そして急いだように振り返り、少し早足で向こうへと去って行った。
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