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「随分と懐かれているのですね。あそこまで慕われると、院長も彼らが可愛くて仕方がないでしょう」
くすくすと笑いながら、一色纏はついさっきまでの賑やかさを振り返った。
「…そうですね。スタッフを贔屓するつもりはありませんが、素直で真面目で、無害な良い子たちです」
「ふふっ。その無害というのは僕への当て付けですか?」
答えなければ視線も渡さないまま、俺は白衣を脱いだ。
こんなに淡白に接しても、一色纏は可笑しそうに笑うだけで苛立った様子をひとつも見せない。
どんな態度も軽くあしらってくる彼に、却ってこちらの方が余裕を無くしそうになる。
「…ところで院長、そろそろいいですか?」
淡々と帰り支度を進め、背広を羽織ろうとする。
それを邪魔するように、一色纏は俺を懐へと引き寄せて背中から抱き締めた。
「……」
白衣に染み付いた消毒薬の匂い。
それを間近で感じるほど、俺は彼に無遠慮に密着されていることを実感した。
「昨日僕がお渡ししたお土産…。弟さんは喜んでくれましたか?」
低く囁く声と同時に耳元に掛かる吐息に、首筋が粟立つ。
背後を取られている恐怖に竦み上がる身体、何をされるか分からない不安。
それらを悟られたくなくて、俺は努めて冷静な表情を繕った。
「…いえ、見せてすらいません」
「おや、残念です。まぁ手付かずで捨てられていないだけマシというものですね」
「……」
「……それで、”こっち”は見られましたか?」
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