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仰向けに押さえ付けられたまま、表情を硬くして竦み上がる俺を暫く見つめて、一色纏は目蓋を伏せて深い溜め息を吐いた。
「しかしあなただけを責めるわけにはいきませんね。落ち度は僕にもありますから」
程なくして浮かべる、柔らかい笑み。
けれどこちらを見下ろす瞳の奥はひどく冷静で、隙のない雰囲気に気圧された俺はたじろいでしまうばかりだった。
「そう…。多少の情けで見えない所に付けたのが、僕の落ち度です」
怖気付きながらも必死で敵意を露わにしてみせている俺の頬を、一色纏は撫で下ろす。
その手のひらは首筋をゆっくりと伝い落ち…、途中でぴたりと動きを止めた。
「というわけで。次の印はここにしましょうか」
「……っ!?」
首筋の中間…その少し下を人差し指で突きながら、一色纏は笑みを浮かべたまま言葉を発した。
「人目に晒すここなら、むやみやたらに自分を傷付けられないでしょう?」
「い、嫌…。嫌だ、いや…」
具合を探るような指先に、さっと血の気が引く。
俺は動揺に目を強張らせ、声と身体を震わせながら首を横に振った。
「嫌だ、じゃありませんよ」
力任せに身を捩って逃れようと暴れれば、一色纏はそれ以上の力で上から俺を強く押さえ付ける。
何もかも敵わないこの状況に、俺は絶望すら感じた。
「見えないところに付けて、またこっそり自傷でもされたら敵いませんから」
「もうしない、もうしません、だから…!」
かぶりを振り乱して必死で訴える俺の首筋をなぞる、一色纏の舌。
するりと滑り落ち、程なくして肌を喰むべく唇が充てがわれる。
「…言ったでしょう? 院長」
「あ…っ、やめて。嫌…。嫌っ、やめて…!」
「許すことは出来ないと」
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