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「なら、ちょうどいいですね」
髪を撫でる感触が離れたと同時に、降ってくる言葉。
「僕を弟さんに会わせてください」
「……え…?」
「会って話がしたいのですよ」
一色纏の落ち着いたその声に、俺は心身の疲弊に参って弱り切った目を瞠った。
動かすのも億劫で困難なほど怠い身体を起こし、茫然として彼を見上げる。
「そして自分にはキスマークを付けるような間柄の人がいると。恋人がいるのだと。あなたから弟さんに、僕を紹介してください」
淡々と継がれていく言葉に血色を失っていく俺へと、一色纏は優しさを装ったような柔らかい表情で微笑んでみせた。
「もう隠せないのですから、構わないでしょう?」
ーー言葉どころかまともに声も出ず、浅く呼吸をするだけで精一杯だった。
見えない鎖にがんじがらめにされているかのような窮屈感と息苦しさを、全身に感じた。
「早い方がいいです。予定、訊いておいてくださいね」
苦しい、苦しい。
どこが、何が、そんなものは分からない。
なのになんだか、とても苦しい…。
にこりと微笑む彼を低い所から見上げたまま、身体も心も冷たく固まる。
所有されている証である首筋の痕が、ひどく疼いたーー。
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