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風呂から出た俺は粗方の水分をバスタオルで拭いた後、カゴの中から部屋着を拾い上げた。
その一式を身に纏い、洗面台の前に立つ。
いつもならVネックのニットを楽に着ているはずなのに、今日の鏡に映った自分は、堅苦しく首回りを覆われた白のタートルネック姿だ。
鏡へと身を乗り出し、首回りを細かく確認する。
首筋全体を包む衣は、窮屈そうではあるが痕をしっかり隠してくれていた。
(…良かった、これなら職場はどうにかなる)
具合を見るように指先で襟を引っ張り、ほっと胸を撫で下ろす。
けれど、その安堵も束の間だーー。
「…那月?」
夕食を終え、食器の片付けを終えた俺は、今にも眠りそうなノラをあやしている那月の元へと歩み寄った。
「なに?」
「その…ちょっといいか? 話があるんだ」
「うん、いいよ」
「……」
目を細めているノラの頭を包むように撫でながら、那月はソファ越しにこちらを振り向く。
躊躇いがちに近付く俺を見る表情はとても柔らかく、だからこそ胸に鋭い痛みを覚えた。
「……ごめん、ちょっと待っててくれ」
自分から意味深に声を掛けておいて、場を離れる。
不思議そうにしている那月をリビングに置いて、俺は部屋へと入った。
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