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「会わせたい人、ね」
その反応は意外なほど静かで、大人しいものだった。
俺の言う”会わせたい人”というものがどういった意味なのか読み取れているはずなのに、驚きもしなければからかいもしない。
「いいよ、いつがいいの? 早い方がいいでしょ?」
「おまえの都合に合わせるよ」
「じゃあ来週の木曜がいいな。明けで帰って来る日だから、夕方以降にしてくれると嬉しい」
那月は最低限の笑みを残したまま、淡々と言葉を受け止めて話を進めていく。
怒っているとか、機嫌が悪いわけではないのだろう。
だけどさっきまで子供のように笑っていた人間が、さっとスイッチを切り替えたように真面目で大人びた表情になると、やっぱりその温度差に戸惑ってしまう。
「わかった。伝えておく…」
「よろしくね」
にこりと笑う那月に、俺は小さく頷いた。
話が纏まり、あっという間に会話の終わりが見えてしまう。
「……那月?」
「ん?」
「何も…訊かないのか?」
その呆気なさが堪らなく不安で、俺はつい訊ねてしまった。
根掘り葉掘り色々訊かれると思っていたからこそ、意外なほど関心なさげな態度がひどく怖かった。
「訊きたいことがないわけじゃないんだよ」
俺を宥めるように那月は優しく微笑み、そして言葉を繋いだ。
「本人に会って訊くのがいいかなって、思ってるだけ」
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