新しい朝はこんなにも

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ーー再び幼虫型スナック菓子をひとつ摘んだ後、それを最後に那月は箱に蓋をした。 まだ半分は残っている、また後日に食べるのだろう。 「…一応言っておくけど、その人なんだ。この土産買って来てくれたの」 「へぇ、そうなの? じゃあ会ったときにお礼言わないとね」 冷蔵庫に箱を仕舞いながら、那月は言う。 そしてついでに取り出した飲み物をダイニングテーブルでコップに注ぎながら、言葉を続けた。 「僕と趣味嗜好が被ってるかもしれないね、その人」 「まぁ…土産であんなの貰ってはしゃぐのもおまえみたいな奴ぐらいだろうな」 「でも土産として売られてるってことは一般人に求められてるってことだよ」 その場で飲み干し、コップを洗って片付け、また俺の隣へと戻ってくる。 「それにしても凄い偶然だねー」 「偶然?」 「だってあれ、爬虫類カフェのお土産だよ。この前行ったところの」 「え…そうなのか?」 思わぬ情報に目を丸くする。 行ったんだ…、あの店…。 「その人も最近あの街に行ったってことでしょ? もしかしたら同じ日にいたのかもね」 冗談っぽく言いながら那月は笑う。 「……そうだったら、困るな」 俺はそれを、曖昧な表情で惚けるように聞き流した。 喉まで押し上がる、たくさんの言葉を飲み込んで。 ーーそう、いたんだよ、その日に同じ場所に。 手を繋いで浮かれておまえに着いて歩く姿を見られたんだ。 おまえのこと、どんな風に見ているか気付かれたんだ。 今それをネタに脅されているんだ。 嫌なのに身体を触られるんだ。 わざと目立つ場所にキスマークを付けられるんだ。 それが来週、おまえに俺の恋人として紹介しないといけない人間なんだーー…。
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