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「来週の木曜日、夕方以降でお願いします」
当然のように勤務上がりに院長室を訪ねて来た一色纏に、俺は義務的に告げた。
「夕方ですね。わかりました」
渋る様子もなく、一色纏はにこりと頷く。
「弟さんに気に入って貰えると良いのですが」
そう言いながら困ってみせる表情が妙に白々しかったので、俺はそっぽを向きながら言葉を返した。
「福留さんを始め、短期間でスタッフの信頼を得たあなたなら造作もないことでしょう」
「いえいえ僕なんてまだまだです。なんせ来たばっかりの新米の若造ですから」
皮肉っぽく言う俺に、一色纏は肩を竦めて苦笑する。
今の俺には、それすらも白々しく思えた。
「謙遜しなくてもいいじゃないですか」
明からさまなまでに関心ない態度で言って、俺はデスク上の資料を纏めて書棚に片付けた。
「謙遜なんてしていません。それにスタッフからの信頼度なら僕よりも院長の方が圧倒的に高いでしょう」
俺の一連の動作を観察するように眺めながら、一色纏は分かりやすいお世辞を放つ。
「なんなら試しに、あなたに強いている僕の所業を口外してみてはいかがですか?」
「……っ」
続けられた言葉に棘を刺され睨み付ける俺を、人懐っこく笑って見つめた。
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