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眼鏡の破損を懸念して外してやり、テンプルを畳んでローテーブルの上に置いた。
那月はやはりぴくりとも反応しない。
平然な顔して帰ってきたが、昨日の仕事の疲れがよっぽど溜まっていたのだろう。
……無理もない。
昨日の朝8時には出勤して泊まり込みで働き、ようやくさっき帰ってこられたのだ。
「……ごめんな」
本来ならば際限なく寝かせてやるべきなのに。
山吹色の髪に躊躇いがちに触れる。
労わる気持ちを込めて、泥のように眠る彼の頭を撫でた。
テレビ画面の向こうは物語の佳境に入り始めているが、構わず消した。
なるべく音を立てないようにしたかったし、展開を追うなら彼と一緒がいいと思ったからだ。
リモコンをローテーブルに置く。
カーペットの上に座り、ソファに凭れながらぼうっとした。
さっきからノラが随分静かだなと思って見てみれば、那月の懐ですやすや眠っていた。
寄り添って眠る姿が微笑ましい。
心なしか寝顔も似ているような錯覚がして、眺める自分の表情が微かに綻んだ気がした。
ーーそのとき不意に、携帯のメッセージの通知音が響いた。
それが俺の携帯であることに気付いて、確認する。
嫌な予感は的中して、メッセージの送り主は一色纏だった。
”今日はよろしくお願いします。お会いするのを楽しみにしていますね”
仕事の休憩の合間に送ってきたのだろう。
遠回しの”逃げるな”という牽制に、俺は眉をひそめた。
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