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その質問に、ちくりと胸が痛んだ。
ーーああ、彼の中では俺はもう一色纏の恋人なのだと。
冷たい現実を突き付けられたような気がした。
「先週の水曜日から、ですね」
一色纏は俺に向けていた笑みをそのまま那月に向け、問いに答えた。
「え、先週?」
「おや、どうしましたか?」
驚いたように目を丸くした那月に、不思議そうにする一色纏。
彼のその表情を見た那月は、今度は自身の反応を取り払うようにして苦笑した。
「いえ、身内の僕とこうした改まった形でお会いして下さったものだから。てっきり交際期間もそれなりに長いのだろうと思っていたので」
「ははっ。ご家族に紹介して貰うには、いくらなんでも気が早すぎると言うことですか?」
「だけど、それほど兄を気に入ってくれているということですよね?」
人懐っこい微笑みと興味ありげな態度を崩さないまま、那月はまた訊ねる。
そうして一色纏との会話を弾ませる彼を、俺は孤独な気持ちで眺めていた。
一色纏との交流を楽しむ彼に、祈るような気持ちを向けていた。
「ええ、とても」
「へぇ、兄のどこに惹かれたのですか?」
耳を塞ぎたくなる状況下に耐え兼ねて、再び視線を落とす。
「うーん、そうですねぇ」
そのまま会話の行く末に独り怯えている俺をちらりと一瞥して、一色纏は少し考え倦みながら答えた。
「健気なところ、でしょうか」
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