新しい朝はこんなにも

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ーー3人での会食は、最初の挨拶から約2時間ほどで締め括りに入った。 「そろそろお開きですね。那月さん、今日はありがとうございました」 「こちらこそ、お会い出来て良かったです。一色さん」 向かい合うように席に着いている2人が、丁寧に頭を下げ合う。 そんな彼らを、俺は傍らでぼんやり眺めていた。 ようやく今日が終わるのだと、この場から解放されるのだと、ひどく安心していた。 …和やかに談笑している2人を見ているのは、やはり苦痛だった。 だけどもう一度場を離れずに済んだのは、逃げ出した俺が戻って来たそれ以降、彼らが俺と一色纏の馴れ初めや交際についてを会話に組み込まなかったからだろう。 一色纏が嘘塗れのそれらを語り出すこともなければ、那月が好奇心に乗って訊ねかけることもなかった。 まるで示し合わせたかのように、一言もだ。 ーー自分の私情に付き合わせたお礼にと、一色纏は全員分の会計を済ませてしまった。 借りを作りたくないと思い、俺が払うと慌て申し出たが、空気のような扱いを受けて見向きもされなかった。 暖簾を潜り、ぞっとするような寒さの外へと出た。 屋内との温度差に、堪らず肩を縮こませて身震いする。 そんな俺に、まるでハンガーにコートを引っ掛けるかのような当然の仕草で、那月は自分の上着を被せてきた。 「ごちそうさまです。いずれ別の形でお返しします」 急に与えられた温かさにぽかんとする俺を見ないまま、那月は一色纏の厚意を素直に受け取って微笑んだ。 「それは嬉しい、ぜひ楽しみにしています」 一色纏はにこりと微笑み返す。 そして那月に貰ったコートを被る俺に、視線を移した。 「聞いた話通り、素敵な弟さんですね。知り合えて良かったですよ」 「……」 表情を硬くして警戒を示す俺を、一色纏は笑みに細めた目で見つめてくる。 物怖じしない瞳に、彼の言葉に潜められた影を感じた。 「…では僕はこれで。お二方共、今日はゆっくりお休みください」 そして俺の返事を望まずにこちらに背中を向け、自身の車の方へと去っていった。
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