新しい朝はこんなにも

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ーー…それは俺に配慮して選んだ言葉ではない。 那月は普段から俺に対して、そんな遠慮はしない奴だ。 俺が選んだものが変なら直球で変だと言うし、間違っているなら間違っていると止める。 その対象が例え、恋人という俺にとっての特別枠だったとしても。 「……そうかな」 「うん。いい人見つけたんだなって思ったよ」 そんな彼が、俺の問いに言い淀む素ぶりも見せずにきっぱり言い切った。 迷わずに紡がれたその言葉は、明らかに彼の抱いた本物の感想だ。 那月は、一色纏を認めたのだ。 病院のスタッフや患者と同じように、俺や彼にとって信頼出来る人物として定めたのだ。 …那月は…。 那月も、一色纏の仮面を見抜けなかった…。 「……そうか」 崖上から奈落の底まで、突き落とされたような気分だった。 「……ははっ、それなら、良かった…」 神様に祈るように那月に救いの手を期待して、きっと大丈夫だと舞い上がっていた自分を思い出して、傍目に見たそんな自分はきっと滑稽で。 なんだか何もかもが可笑しくなって、思わず渇いた自嘲が零れた。 この人なら、この人ならと縋っていた。 一色纏という存在の本質を見抜けると、信じていた。 その最後の望みすら、たった今潰えてしまったーー…。 「……。でも」 那月は運転に支障の出ないほんの一瞬だけ、失意に陥っている俺を一瞥した。 「兄さん次第かな」 程なくして繋がれた言葉。 茶化すような笑みもなく、祝うような笑みもない。 ただ真っ直ぐに前を見ている、重く静かな表情が印象的だった。 (俺 次第って、なに…?) それは俺が、一色纏に好意の欠片もないから言うのか? 彼の気持ちに応えずに恋人になっていることを、暗に咎めているのか…? 「……っ」 責められているような気がして、胸中に鋭い痛みを覚える。 返事も出来ないまま、咄嗟に那月のコートで口元を隠した。 今喋ったら、声が震えているのがバレてしまうと思った。
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